第2回「声良鶏の謡」
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白熱する決勝戦
 
  声良鶏の謡。その不思議な声色と抑揚を言葉にすることは簡単ではない。しかし、昔から五音律からなるその謡は「国光郷王」(ゴツコウゴウオウ)と称されてきた。確かに目の前で聞く声良鶏の謡は並々ならぬ 雰囲気、迫力がある。コケコッコーと楽天的に鳴く一般の鶏とはひと味もふた味も違う。深山から湧き出す響きと言えばよいのだろうか。周囲の空気感さえも変えてしまうほどだ。

 さて、審査は順調に進んでいた。北東北各地から集まった愛鶏家たちは、日頃の鍛錬の成果 を次々と披露していく。しかし、なかには、鳴き台に乗った直後に謡い始めたものも、ほんの出だしで謡を切ってしまい、結局そのまま7分間ずっとだんまりを決めこんでしまう鶏や、終了の30秒前になってやっと思い出したように急いで謡い出す鶏など、場内の笑いを誘い場面 がいくつかあった。声良鶏を飼育する人たちは、こうした大会に合わせて、鳴き台を自作し、鶏がそこに乗った瞬間に謡うように訓練しているという。また、鶏が暗いところから明るいところに出ると夜明けだと思って鳴き出す習性を利用するため、会場では出番が来るまで声良鶏を暗箱に入れて待機させている。相手は生き物、そう簡単には上手く鳴いてはくれないようである。しかし、それがまた声良鶏を飼育する楽しさなのかもしれない。

 昼食後に行われた決勝戦は、さすがに強者ぞろいであった。緊張でしんと静まり返った場内には、声良鶏の重厚な謡が次々に響きわたった。審査員の方々の表情にも緊張が見えた。

 しかし、最も印象的だったのは迫真の謡を披露した愛鶏への飼い主の接し方である。結果 はどうあれ、実力を発揮した愛鶏を大切に抱え、手作りの木箱に入れるその手つきは、鶏への限りない愛情が感じとれた。また、たとえ結果 が思い通りにいかずとも仲間たちと親好を深め、次の大会へと思いを馳せている様子は、この北国の地で数百年にもわたって育まれてきた“声良鶏”という文化が今もなお健在であることを証明していた。

 白熱した決勝戦の後、審査結果が発表され、今年のチャンピオンが決まった。愛鶏家たちは、ここに来たときにそうだったように、愛鶏が休む木箱を風呂敷で大切に包み込むと、それぞれの家路に着いた。
飼い主は愛鶏を励ましながら、
良い謡を引き出す。
口笛などが謡の合図としている人が多い。