愛鶏が評価される品評会ではあるが、愛鶏家にとってここで決められた成績はあくまで結果である。日頃の苦労が評価されるのだから、ある程度、結果にこだわるのはもちろんだが、真の愛鶏家はむしろ品評会に至るまでのプロセスを大切にしている。
品評会に向け、良い鶏を育てるにはまず良いヒナを生ませなくてはならない。これには、前章で書いたように遺伝子の交換を巧みに行いながら、品種本来の特徴を良いかたちで継承しつつ、同時に強健な身体を持ったヒナが作る努力を行う。また、ヒナを誕生させる時期も重要である。春に生まれたヒナは、暖かな気候に恵まれて大きく育つ。また秋に生まれたヒナは小さく育つ。そこでシャモのように大きく育てたい鶏は、春に卵を生ませ、チャボのように小さく育てたい鶏は、秋に卵を生ませる。
次に成長段階で最も大切なことは身体を作る餌である。ペットショップでは配合飼料が販売されているが、配合飼料のみを与えている愛鶏家はほとんど皆無と言ってよい。
基本的には配合飼料さえ食べていれば、生きていくのに必要な栄養は確保できるのだが、新鮮な野菜やタンパク質を与えることで、鶏の身体はさらに逞しくなっていく。飼料づくりに力を入れている愛鶏家は、ミキサーで人参や大根、大豆など季節の野菜や穀物を砕き、オリジナルの餌を試行錯誤しながら作っていく。また、昆虫類はタンパク質やカルシウムを補うのに最適と言われており、来る日も来る日も田の畔に立ち、イナゴ穫りに精を出す愛鶏家もいるという。
さらに、卵を生ませる雌鶏には牛乳を与えることもある。牛乳はいわば完全食品で、少量で高い栄養価を期待できるのだ。
こうした食べ物による身体づくりが、品評会に向け徹底的に行われる。そして、開催日が間近になると愛鶏家は最終的に所有の鶏の中からベストのコンディションのものを選ぶ。選別後もまだやらなければいけない事が残っている。少しでもその姿が美しく見えるようにと、お風呂にいれてやり、鶏冠から足の先まで全身をくまなく石鹸で洗ってやるのだ。鶏をお風呂に入れてあげるなど、ほとんど冗談のような話だが、愛鶏家の間では当たり前だという。しかも風邪が引かないようにとお湯を使い、ドライヤーをあててやる人もいる。また、風呂を入れる日は、品評会の2日前。前日に入れてしまうと、慣れない風呂に入れられたことによる疲労が翌日まで残り、当日に悪影響が出てしまうからだ。
繁殖にはじまり、餌、身だしなみの管理など、品評会に向けてどこまでこだわりきれるか。愛鶏家が単なる結果よりもプロセスを重んじるというのは、こうした鶏との深い付き合いの中で育まれるからである。
一見すると、ただ鶏が並んでいるだけのように見える品評会。その裏側では、まさに情熱に情熱を重ねるような人と鶏とのドラマがあるのである。
|
|
|
|
熱心な愛鶏家のひとり、
玉山村の高橋さん。
|
|
高橋さんは洋種鶏の一種である
横斑プリマス・ロックんぼ飼育に
力を注いでいる。。 |
|
高橋さんの鶏舎では、
手作りの飼料を与えているため、
どの鶏も毛づやが良い。 |
|
|
|