幻とされた「岩手地鶏」との出会いを求めて向かったのが岩手県北東部に位置する山形村。
北上山地のまっただ中にあり、実に広大な面積を要するにもかかわらずその人口は4000人にも満たない小さな山村である。
村の主な産業は農林業で、特に盛んなのが炭焼き。村内のあちこちに薄紫の煙をたなびかせる炭焼き小屋が点在し、昔ながらのスタイルで良質ななら炭が生産されている。かつては日本一の生産量を誇るなど、知る人ぞ知る炭の里である。
ちなみに村で信号があるのは役場付近の1ヵ所のみ。このエピソードだけで山形村の牧歌的雰囲気が十分に伝わる思う。
さて、肝心の岩手地鶏は、この山形村の小国(おぐに)と呼ばれる集落でいまもなお飼われているという。
その小国を目指し、山形村の中心部を走る国道を横道にそれる。山形村は平地が少ないため、隣りの集落に行くためにも山を越えなければならない場合が多い。地図に見る限り、国道から小国集落への道のりはいくつもの山を越える必要があった。
小国へと向かう山道。12月の初旬にもかかわらず周囲の森は白く染まり、この冬はじめての雪景色が広がっていた。しかし、風景を眺めている暇はない。雪が降り積もった道路はアップダウン、急カーブを繰り返しながらさらに森の奥へ奥へと続いていくのだ。
手に汗を握る思いで車を走らせるが、それでも視線は周囲の風景に惹かれてしまう。時折通り過ぎる集落には、茅葺き屋根の家が点在し、小川は護岸されることなく、くねくねと自由に蛇行を繰り返しながらせせらぎを下流へと運ぶ。大雪のため、集落に人気はなかったが、茅葺き屋根の柔らかなフォルムと煙突から立ち昇る煙が何とも優しい気もちにさせてくれる。いつか見た風景、あるいは「日本昔話」に登場する集落といったところか。岩手でもなかなか見る機会が少なくなってしまった風景でもある。
こうした風景の先に、山に抱かれ、静かに佇む小国集落があった。そして、その中の一軒が「岩手地鶏」を飼育する砂川利男さんのお宅だった。
案内された部屋には囲炉裏があり、炭が赤々と燃えていた。優しい笑顔をたたえながら、砂川さんは、こちらが質問を言う前に静かな口調のまま「南部白笹鶏」の物語を語り始めた。
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山形村へと続く道。
平庭峠には美しい樹肌をした白樺が出迎えてくれた。
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雪に閉ざされた山形村。
厳しい自然環境の中で、山の文化が伝えられてきた。
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茅葺き屋根の民家。
いつか見た「日本の風景」が点在している。
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