第1回「幻の南部白笹鶏を追って」
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岩手地鶏、山形村で復活
 
 その後も、砂川さんのお母さんは南部白笹鶏に愛情を注ぎ続けたが、世間の南部白笹鶏離れはますます進行していた。そしていつしか、“かつてはどこでも見られた地鶏”が、“どこへ行っても見られない”という状況を迎えていたのだ。

 そして、昭和51年、南部白笹鶏だけでなく、砂川さんのお母さんにとっても思い出深い時を迎える。前年に盛岡で行われた日本鶏品評会で、二戸市下斗米の農家からある鶏が出品されたのだ。その鶏とは絶滅したと考えられてきた岩手地鶏であった。

 幻の岩手地鶏発見のニュースはたちまち研究者や愛鶏家の間を駆けめぐった。早速、種の保存のため雛をとることが計画されたが、不運なことに下斗米の鶏は繁殖に不可能な老齢であった。

 だが、この鶏が発見されたことにより、北上山中の小さな部落に行けば、岩手地鶏がまだ存在しているのではという期待が持たれ、その翌年には「岩手日本鶏研究会」が発足。岩手地鶏発見に向けて、本格的な調査が始まったのだ。

 そして、この調査隊がたどり着いたのが砂川さんの家だった。そこには、幻の岩手地鶏の実に生き生きとした姿があったのである。

 その後、岩手地鶏の研究や繁殖計画が活発に行われ、その形質を完全に復元。岩手地鶏の完全復活を待っていたのは、昭和59年に指定された国の天然記念物としての称号である。古来から携えてきた地鶏の原種としての特徴と、一般的な地鶏には見られない白笹系の羽色が評価された結果であった。
同じ南部白笹鶏でも赤笹模様を持つ鶏もいる。
白笹に負けず劣らず、美しい姿をしている。